美容業の業績の平均から自店の給与水準を考える方法

みなさんのお店ではスタッフの給与を決める時にどのような方法をとっていらっしゃいますか?まずお店の経営が安定していることが前提ですので、他社平均や事例を踏まえて適正水準を考えていきましょう。そのうえで、従業員のやる気を引き出すお給料の決め方について考えていきましょう。

ここでは大手会計ソフトグループのTKCが四半期ごとに公表している美容業の業績数字をもとにお話しをしていきます(2022年1月決算~2022年3月決算版です)。

美容業の平均的な業績を分析!黒字企業割合 36.8%

美容業全体での黒字決算率は36.8%、3社あれば1社が黒字、2社が赤字という状態です。皆さんのエステもしっかりと運営されているかと思いますが、 残念ながら美容業は全業種の中でも最も低い黒字決算率のグループになっています。

美容業は小規模の美容室やエステサロンなどが多く、全国展開している一部の企業以外は年商1億円未満での経営が多くなっているかと思います。

平均売上などは一部の大手企業の数字の影響を受けるので取り上げませんが、 比率として重要な数字を説明していきます。

 

いわゆる粗利率は85%

粗利率が85%ということは、例えば1万円の施術をすれば、薬剤などを除いて手元に8500円が残る計算になります。マッサージ店やリラク、カット専門などの薬剤などが不要で粗利率100%の業態もありますが、物販は粗利率が50%前後になるかと思います。この組み合わせとして売上全体を平均して粗利率が85%になるということです。

例えばこの物販を分けて集計せずに単純に売り上げだけを追いかけていると、「過去最高売上だ!みんなにボーナス支給!」としても、思ったより粗利は伸びていなくて赤字になるパターンにハマってしまいます。

弊社PROSではリアルタイム会計を推奨しているのですが、皆さんのお店ではタイムリーに粗利率を把握する仕組みはありますか?毎日の売上から粗利まで算出される仕組みを導入しましょう。詳しくはこちらのブログに書いておりますので、ぜひご覧ください。

 

 >リアルタイム会計

 >クラウド会計

 >スマレジの活用法

 

粗利益の半分ちょっとがスタッフの給与の目安・・・労働分配率53.8%

美容業全体では稼いだ粗利益の約半分をスタッフや社長さまの給与として分配しています。この粗利に占める給与の割合を労働分配率と言います。

 

※先ほど申し上げたように、売上高を中心に考えて給与を決めるのはリスクが大きいです。エステティシャンでも単純な売上数字だけで評価されるならば物販に力を入れた方が楽です。しかし物販では半分ぐらいしか粗利が残りません。大切なのは実際にお店に残る粗利益なのです。そしてお給料を決めるときは、この粗利益からどのぐらいスタッフに分配するのかを中心に考えてください。

 

皆さんのお店では粗利益の何割を従業員と社長で分け合っていますか?ぜひ決算書を見ながら確認してみてください。

 

最終的に利益はどのくらい残っているのでしょうか?・・・経常利益率6.8% 

美容業全体では経常利益率が7%弱です。経常利益とは売上から薬剤などの仕入れ、人件費、広告費や地代家賃、様々な消耗品、そして金利を引いた後の利益のことです。

 

美容業全体の平均から見ると、売上5000万円のサロンだとだいたい350万円の利益がでていることになります。皆さんのお店と比べて利益水準はいかがでしょうか?税金もありますので節税の視点から単純に大きな利益を出せばよいということではありませんが、来年以降の投資を行ったり借入の返済を行うためにも一定の利益は必要です。

 

従業員の一人当たり売上や粗利、給与の平均はいくらでしょうか? 

1人当たり売上高の平均は約800万円です。そして一人当たりの粗利の平均は約670万円、人件費の平均は360万円となっています。なお、この人件費には会社が負担する社会保険料の労使折半分(約15%)や福利厚生費も含んでおりますので、社員が受け取る給与額面としては360万×約85%=300万円程度が平均になります。また、従業員の中にはエステティシャンではない受付レセプションや事務員アルバイトなども含まれるため、エステティシャンの給与は350万円前後になるかと思います。

 

1か月あたりに直すと、売上67万円(800万÷12)、粗利56万円(670万÷12)、賞与2ヶ月分として給与額面は25万円(350万÷14)くらいになります。皆さんのお店ではこれを超える金額をスタッフさんが稼ぎ、給与も出せているでしょうか?

 

広告費はいくらくらいが適正でしょうか?

適正な広告費はいくらか、これはズバリと答えることが難しい質問になります。弊社PROSのクライアントさんを見ていると売上の1割~2割程度になることが多いのですが、適正値は次のようなことを考えて決めていきます。

 >詳しくは妥当な広告費を見極める方法 ブログをご確認ください。

  1. その広告が狙った効果を上げているか
    お店に来店してもらうためにかかった1名あたりの広告コストと、ご新規様がコース契約にいたる割合、そしてコース契約で期待できる粗利のコスパを見ます。
    専門用語になりますが、ライフタイムバリューとコンバージョン率を見ていくことになります。
  2. ベッド数の余りがあるかどうか
    店舗の稼働率を把握します。家賃や光熱費などを負担しているので、できるだけベッドの稼働率を上げた方が利益は残ります。ベッドの稼働率が70%を超える水準を目指しましょう。
  3. ご新規様を受け入れるスタッフ教育ができているかどうか
    ベッドに空きがあっても、施術するスタッフがいなければどうしようもありません。適切な施術を行えるスタッフ教育を行ってください。

 

粗利額が最低限コストと販促費を超えていることが重要

エステサロンの経営を続けるためには、最低限必要な粗利を稼がなければなりません。人件費以外で最低限必要な粗利は、家賃・光熱費・機器リースレンタル料・消耗品代などの経費合計額に返済金額を加えた金額です。これに売上の1~2割程度をかける広告予算も加えないといけません。これを超えた金額がスタッフ給与の増やす原資になります。

 

これを損益分岐点粗利と言います。

 

損益分岐点粗利=最低限の経費合計額+返済金額+広告予算+最低ラインのスタッフ給与

 

損益分岐点粗利を超えていない状態でスタッフの給与を上げたり、社長が贅沢をすることはできません。まずは損益分岐点粗利を確実に超えるだけの売上を確保してください。

損益分岐点粗利を稼ぐための売上の考え方

サロン経営において「売上=客数×客単価」であることは常識ですが、どのように粗利を増やすかということを考えると、これでは足りません。

粗利=売上×粗利率ですから、

施術売上からの粗利=施術数×客単価×粗利率

商品売上からの粗利=客数×購入率×客単価×粗利率

というように分解して考えていく必要があります。

また、施術についてはお客様の状態によって「ご新規」「関係構築中」「初コース」「長期リピートのファン」によって分けて把握していきましょう。同時にスタッフの得意分野も把握し、高級なプランを施術できるように育成していきましょう。

 

これらを把握するためにも、レジ機能の強化は欠かせません →スマレジ

 

スタッフを雇うとき、給与はいくらに設定すれば良いのでしょうか

損益分岐点粗利を超えていて売上をさらに伸ばしていける見込みがあって初めてスタッフの給与を上げる余力ができてきます。エステティシャンの給与をあげるときに考えなければいけないのは次の3つです。

  1. 周辺の競合との給与水準で優っているか
  2. 一定の計算に沿って粗利益と連動する仕組みになっているか
  3. 従業員のやる気を引き出すものになっているかどうか
  4. 給与以外のやる気を引き出す仕組みがあるかどうか

 

最低賃金を超えていることはもちろんですが、無限に給料を高くしても従業員のやる気を引き出し続けるかと言うとそうではありません。仕事に対してやる気を持ち貢献度の高いエステティシャンには金銭面にも、やりがいプライドの心理面でも報いる制度になっていないといけません。

 

もちろん損益分岐点粗利を超えていますので、エステティシャンに多くの給料払っても経営の存続にダメージはでないようになっています。この状態を作ったうえで、うまく仕事にゲーム的な要素を加えてさらに成長の好循環を引き出せるような仕組みにしていきましょう。

給与水準の決定は経営計画とも密接な関係がありますので、気になる方はこちらも合わせてご覧ください。

>エステサロン版の経営計画の作り方

前提となった業界の平均値や用語の説明はこちらのブログにまとめていますのでご参照ください。

>会計用語とTKC-BAST