開業に向けた退職前後の手続き:個人事業の成功術

さまざまな不安がありますが、まずは事業者となる第一歩として必要な手続きをスムーズにこなしていきましょう。

会社や公務員など、組織に勤めて給与をもらう立場から色々なものが変わっていきます。

今回は退職前後の手続きをもれなく行うためのチェックリストと注意点をご説明していきます。

忙しくなった頃に役所から問い合わせを受けてバタバタと足を引っ張られないように、段取りよく手続きを済ませていきましょう。

健康保険の切り替え

会社や官公庁安堵を退職すると、それまで加入していた社会保険(厚生年金・共済年金など)から自動的に脱退することになります。

退職日が月末であれば翌月1日付、退職日が月末の前日までであればその月末までで加入資格を無くすことになります。

 

それでは、社会保険から抜けたあとはどうなるのでしょうか?

20歳以上60歳未満の人は、国民年金への加入が義務付けられるため、国民年金への加入手続きを自分で行う必要があります。

それも、退職後14日以内に、住所地にある市区町村役場で行います。

 

この切り替えを行わなければ、保険証を持っていない期間ができてしまいます。

その間は医療費を全額負担しなければならないので気を付けましょう。

(適切に手続きして空白期間をなくせば、返金されますが、余計な手間や期間がかかります。)

 

厚生年金などに加入しているあいだは保険料は会社とあなたで半分ずつの金額を納めていたのですが、今後の国民年金の保険料は全額をあなた自身が納める必要があります。

また、社会保険の三号被保険者として扶養していた配偶者や成人した家族などがいらっしゃれば、彼らの分も個別に納める必要が出てきます。

 

そのため、納付額は社会保険の頃よりも多くなるケースがありますので、退職前に市役所等に問い合わせするなどして、世帯全体で必要な保険料を確認しておいてください

前の職場の社会保険を最長2年間、任意継続することができますので、どちらが有利かはしっかりと確認して判定しておきたいところです。

 

失業保険の受給

労働保険のうち、労災保険については会社が手続きを行いますので特段手続きは不要です。

もう一つの雇用保険については、速やかに次の事業を開始する状態が整っていなければ、
いったん失業状態になりますので、手続きを行うことで失業給付の受給要件を満たすことが
できます。

そのため、退職時に会社から「雇用保険被保険者 離職証明書(いわゆる離職票)」を発行してもらってください。

離職票を、あなたの住所を管轄するハローワークへ持参し、所定の手続きを経て、失業給付の手続きを受けてください。

※注意点1:給付の前提について※

退職してから事業開始まで日数がかかり、一時的に求職活動を行う必要がある失業状態であることが前提として支給されるため、すみやかに事業を開始する場合は、給付の対象にはならない点に注意してください。

※注意点2:書類の発行について※

「雇用保険被保険者 離職証明書」は自動で発行されるものではなく、退職者の要望を受けて会社が発行するものになります。そのため、失業給付をもらいたいと考えている場合は、退職時に総務部や人事部などに依頼をして作成してもらってください。

最後の給与で精算される税金(所得税・住民税)

社会保険に続いて、税金のお話をします。税金は大きく3つに分けてお話していきます。

まず所得税について、①給与から引かれる源泉所得税と、②退職金から引かれる所得税の二種類、そして、③住民税についてご説明していきます。

①退職者の給与に関する源泉所得税について

12月31日に退職する場合を除いて、年末調整をしてもらうことが出来ません。

そのため、毎月の給与から天引きされた源泉所得税と、本来納めるべき所得税に差がある人がほとんどです。

副業などをしておらず、年の途中で扶養する人数が変わった等がない場合、給与から引かれる源泉所得税の方が本来納めるべき所得税よりも多くなっているため、確定申告をすることで還付が得られるかと思います。

※12月末に退職する場合は、会社で年末調整を受けることもできますので、総務部や経理部、人事部などへ確認をしてください。

※確定申告にも一定の手間がかかりますので、差額が少額であればそのまま多く払うという選択もあり得ます。

②退職者の退職金に関する所得税について

退職金をもらう人は、一律20.42%の所得税及び復興特別所得税がかかります。

この税率は、給与などの所得とは別に計算されます。

 

そして退職金をもらった場合は、「退職所得」として確定申告をしなければなりません。

※退職金の支払いを受ける時までに「退職所得の需給に関する申告書」を退職金を支払う会社から所轄の税務署長へ提出した場合は、確定申告が不要になります。

そのため、事前に必要事項を記載して会社の総務部などへ提出をしておくことをオススメします。

③住民税の精算について

この住民税というのは少々わかりにくい税制なのですが、前年の給与に対して計算された税金を今年の給与から納めるという仕組みになっています。

そのため、住民税を天引き(特別徴収)されていた場合、退職する月から年末までに支払うべき金額をどのように納めるのか、以下の3パターンから決めなければなりません。

 

  1. 1月から5月末までの間に退職した場合:残額を一括で最後の給与から納める
    (退職日がこの期間だと、基本的にこのパターンになります)
  2. 6月から12月末までの間に退職した場合:最後の給与で一括で納める

もしくは

  1. 6月から12月末までの間に退職した場合:自分で納める

のいずれかの方法で納めてください。

 

また、退職した年の分の収入から計算した住民税は翌年に納める必要があることにも注意してください。

確定申告の準備に向けた源泉徴収票

退職してから1~2か月ほどたった頃に、会社から「給与所得の源泉徴収票」(いわゆる源泉徴収票)というA5サイズの紙が送られてきます。

これは今後使いますので、大切に保管をしてください。

源泉徴収票が送られる理由は何かというと、普段でしたら年末調整をした1月~2月ごろに受け取る源泉徴収票なのですが、退職したことによって、年の途中で締めて送られてくるためです。

 

この源泉徴収票は、退職した年の1月から最後の給与までの収入と納めた源泉所得税の金額がかいてあります。

そのため、今後別の会社に就職した場合は、その会社で年末調整を行うために提出しなければなりませんし、事業を開始した場合はその収入と合わせて確定申告を行う必要があります。

 

もし無くしてしまった場合は、退職した会社にお願いして再発行をしてもらってください。

その他の公共や民間の保険などの再検討

退職したあとは、社会保険や雇用保険がなくなり、国民保険の対象になります。

そのため、万一ケガや病気で稼ぐことができなくなった場合の生活保障が減ることが多いです。

そして、事業が大きく育つと、必要に応じた借入を行うような規模になることもあります。

 

順調に事業が利益を生み出していれば問題がないかと思われますが、万一のリスクをカバーするために保険の再検討も合わせて行ってください。

 

重病での長期入院や死亡に備える生命保険、事故や他の原因で働けない期間が出た時の損害保険や所得補償保険、退職金の備えになる小規模企業共済や退職年金など、ぜひ確認をされてください。

 

組織の中にいれば厚生年金などでカバーされて考える必要がなかったような部分も、今後はすべて自己責任となりますので、確実に対策を考えておくことをオススメします。

 

なお、生命保険の掛け金は確定申告で控除可能ですし、保険金の受取人を相続人名義にすることで、一定額は相続税の課税対象にならない等、国も万一の備えに対して有利な制度を用意して応援してくれています。

 

賢く利用していきましょう。