事業所得と青色申告の恩恵をうけられない人が増えるかも?税務署で検討されている税制改正案とパブリックコメント募集について

今年の確定申告(2022年分の2023年3月15日期限申告)に
適用される税制の改正で、
事業活動を通じた収入が
事業所得か雑所得かの判断基準が厳格になる可能性があります。

2022年8月1日公表の税制改正案で検討されている
年商300万円基準とパブリックコメントの募集について

今回検討されている部分は以下の部分です。

雑所得ではなく事業所得として申告するためには、
①社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかの定性的な条件
②主たる所得であること
③収入金額が300万円を超えていること
の3条件を満たさなければいけない。
そうでなければ雑所得の税制を適用して取り扱っても差支えがない
という税制の適用についての通達案です。

これについて、
2022年8月1日から8月31日までの期間で意見公募されており、
電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見提出フォームや
FAX又は郵便等で意見を集めて
調整の上で細かな部分が決まっていきます。

過去日付の2022年の頭から影響をうけるので
かなり強引な印象、後出しじゃんけん感があります。
そのため、適用開始が後ろにズレたり細かな部分が変わることはありえます。

ただし、基本路線としては
年商300万円を超えていない状態での事業所得での申告が
雑所得として出し直しを求められる可能性が出てきます。
※実際の通達案については、当ブログの最下部に置いています。

税務署の意図と年商300万円基準の方向性を考える

もともと「事業所得」は
営利性、反復継続、労力や精神的負担、
自己責任、社会的地位、投資設備などの要件はありましたが、
はっきりとした数字の基準がなく、
「本人が事業である!」と言いきれば
事業所得で通るかも・・・という感が
無きにしも非ずという状態がありました。
 (税務署が個別に調査して指摘しないといけない)

そして昨今、事業所得にみとめられた
損益通算という仕組みを悪意をもって使い、
たいした売上がないのに
交際費などを
たくさん計上して赤字状態をつくり
給与などほかの所得で納めるべき税金を減らす
脱税策を指南するような状況が一部にありました。

さすがに全件調査を行うことができないために
事業所得に数字的なハードルをつくり
押さえこみたいという意図のようです。

・これまでの定性的だった事業所得か雑所得かの判断基準に
 年商300万円を超えるかどうかという数値基準が増えます。
  ↓
・これにより、
 事業のような形で運営していても、
 主たる所得のもとではなく収入金額が300万円を超えないと、
 雑所得に区分けされるようになります。

年商300万円基準が実現すると影響を受ける人、受けない人

行き過ぎた節税策(≒脱税)を抑止して、
課税の公平性を取りもどしたいということが税務署の意図ですから、
本業として懸命に事業を行っている人は影響を受けません。

そのため、
この改正で特に影響をうける可能性がある人は
 ・300万円未満の売上で赤字状態の副業をつかって
  給与所得など他の課税所得を減らしている人
 ・300万円未満の売上で青色申告65万円控除を使っていた人 などです。

影響をうけない(であろう)人は、
 ・売上300万円以上の個人事業を行っている人
 ・売上は小さくとも主たる所得のもとになっている人 です。

今後の影響についての予測

それでは、今回の改正が成立するとどのような未来につながるのでしょうか?

この改正案は事業所得申告を認めるハードルが増える案なので、
(日本全体として課税の公平性が保たれるとしても)
残念ながら節税的なメリットはほぼありません。

デメリットといいますか
予測される税務署の動きとしては、
次のような行動をとることが予想されます。

【予測される税務署の行動】
事業的な規模とは言えないが
事業所得の損益通算や青色申告の恩恵を受けている人に対して、
確定申告書の事業収入と他の所得などから一律に「お尋ね」を行う
 ↓
適切な回答ができなければ、
税務調査もしくは是正の指示が出て
事業所得ではなく雑所得に修正して申告しなおすように
求められる可能性があります。

この事業所得⇔雑所得の判定基準追加の影響を未然に防ぐための対策

そのため、よけいな疑いをかけられずに
事業所得で青色申告の恩恵を受けるための予防策(?)としては、

  1. 事業の売上を300万円を超える状態にする
     (収支がトントンでもマイナスでも
    取引実績をつくり最低限の売上を作る)
  2. 他の所得を上回る収益を上げて”主たる所得”であると言える状態を作る
     (主体的に稼ぐことを前提に、
    雇用契約ではなく外注としての委託契約に変える等)
  3. 相当の金額を事業に投資している実績を記録する等、
    売上が立っていなくても明確な反論ができる状態をつくっておく

ことなどが挙げられます。
(具体的な取り扱いは、税理士さんや税務署にご相談されてください)

いずれにせよ、
進行期に後出しじゃんけん的に作った通達を
いきなり厳格適用してくるかどうかは何とも言えませんが、
今後の動向を注視していかないといけませんね。

まだどのように最終確定するかは不明で、
もう少し年商の基準が下がりそうな気もします(←願望込み)
もう少し適用が先になりそうな気もします(←願望込み)が、
影響を受けそうな方は、早めに税理士さんや税務署などと確認をされて下さい。

政府方針は起業家を増やしたいはずなので
個人事業主を応援するべきなのですが、
いきすぎた脱税が横行することは避けたいという状態での改正案です。

ご意見がある方はぜひパブリックコメントで一石を投じてください。

国税庁:「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の
一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続の実施について


国税庁:所得税基本通達新旧対照表

よろしくお願い致します。