事業開始に必要な届け出:個人事業の成功術

日本でそれなりの規模の事業を行う場合、役所に届け出を行う必要があります。これは事業者として認知されることにつながり、事業者名での銀行口座の作成などにも必要であるとともに税金を払う意思表示にもなります。

 いくつかの中から一つの選択肢を選ぶことで損得があるものがありますので、ここでは個人事業を開業する際に必要な税金・社会保険関連の主な届け出の一覧と有利判断についてまとめていきます。

提出先 書類名 提出期限 提出✅
税務署 個人事業の開廃業届出書 開業の日から1ヶ月以内  
所得税の青色申告承認申請書 開業の日から2ヶ月以内(1月1日~1月15日の間が開業日の場合は3月15日まで)  
青色事業専従者給与に関する届出書  
給与支払事務所棟の開設届出書 給与を支払う事務所の開設日から1ヶ月以内  
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 源泉所得税を徴収するべき給与支給月の前月末まで  
所得税の棚卸資産の評価方法・単価償却資産の償却方法の届出書 最初の確定申告書の提出期限まで

(未提出時、在庫は最終仕入れ原価法・償却は定額法となる)

 
消費税の届け出各種 開業した年の年末まで(提出しなくても可だが状況次第で提出した方が得する場合が有る)
都道府県税事務所 個人事業税の事業開始等申告書 開業の日から15日以内(提出先によって異なる場合有り)  
労働基準監督署 労働保険の保険関係成立届け出 従業員を雇用した日から10日以内  
公共職業安定書 雇用保険被保険者資格取得届け出 従業員を雇用した日の翌月10日まで  

開業届について

開業届とは、公に事業を行っていることを届け出るものです。これまで給与所得者などであったのですが、今後は個人事業主として稼ぎ、税金を納めるようになります。稼ぐために日本や地域の法律や仕組みなどの枠組みを活用するわけですから、利益が出た分から税金を納める必要があります。

 

税務署に対する開業の宣言を「個人事業の開廃業届出書」といいます。都道府県税事務所に対する宣言を「個人事業税の事業開始等申告書」と言います。それぞれについて説明していきます。

 

※提出する際には、必ず2枚作成し(コピー可)、返信用の封筒に84円 or 94円など必要な切手を貼って入れてください。役所の受付印を押した控えが手に入ります。これを使うことで各種確認がスムーズに進むようになります。

 

※電子申告もできますが、慣れていないと時折ミスすることが考えられるため、郵送で提出する方が安全だと思います。

 

税務署向け:個人事業の開廃業届出書について

「個人事業の開廃業届出書」については、開業してから1ヶ月以内に、住所もしくは事業場の住所を管轄する税務署へ提出してください。この届出書は国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/)からダウンロードすることができます。

記入項目をご説明します。

納税地 原則として現住所
個人番号 12桁の個人のマイナンバーを記入します
職業・屋号 簡潔に記載します。自営業でも可です
届け出の区分 「開業」にチェックします
所得の種類 「事業(農業)所得」にチェックします
開業・廃業等日 開業日を記入します
開業・廃業に伴う届出書の提出の有無 「青色申告承認申請書」にチェックして提出しましょう
事業の概要 扱う商品サービスなどを記載しましょう
給与等の支払の状況 日給や月給などの区分を記載します。

「税額の有無」については、源泉所得税を徴収する必要があるだけの給料(月額88,000円以上など)を支給する場合は「有」にチェックします。

源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無 「有」にチェックして提出しましょう

県税事務所向け:個人事業税の事業開始等申告書について

「個人事業税の事業開始等申告書」については、開業してから15日以内に住所を管轄する都道府県税事務所へ提出してください。(一つの県でも東西南北や市区町村ごとに提出先が異なりますので、ホームページなどで確認してください)

例えば福岡県の場合、博多県税事務所、東福岡県税事務所、北九州西県税事務所、久留米県税事務所など12か所あります。

佐賀県の場合も佐賀県税事務所、唐津県税事務所、武雄県税事務所の3か所あります。

記入の注意点としては、県ごとに書式や呼び名が異なることがあります。所得税の申告区分については、青色申告の申請を行うことを前提に「青色」を選択してください。

従業員を雇う場合に必要になる届け出

次の書類は、従業員を雇う際に必要になる届け出になります。

  1. 税務署向け:給与支払事務所等の開設届出書
  2. 労働基準監督署向け:労働保険 保険関係成立届出
  3. 公共職業安定所(ハローワーク)向け:雇用保険 被保険者資格取得届

順にみていきましょう。

税務署向け:給与支払事務所等の開設届出書

この届出書は給与を支払うような事務所や店舗を開設した日から1ヶ月以内に所轄の税務署に提出します。

労働基準監督署向け:労働保険 保険関係成立届出

この届出は、いわゆる労災保険の届出になります。基本的に従業員を守るための保険になりますが、個人事業主自らが一般の従業員と同じような仕事を行う場合、同様の職務上のケガや病気などの労働災害にあう可能性があるため、特別加入制度といって労働者と同じような

制度に任意加入ができる方法があります。

従業員を守るための労災保険ですから、従業員を雇用した日から10日以内に所轄の労働基準監督署へ提出することになります。この書類を提出すると、あなたの事業所に、労災保険の保険番号が付与されます。

公共職業安定所(ハローワーク)向け:雇用保険 被保険者資格取得届

この雇用保険の届出は、主に従業員の失業保険のためのものです。従業員を雇った日の翌月10日までに、公共職業安定所へ提出してください。なお、こちらは従業員ごとに届け出ることになっていて、従業員各自の被保険者番号などを記入するようになっています。

※被保険者番号とは、各従業員が個人として採番されています。これによって従業員が別の会社に移っても継続した雇用期間などがわかるようになっているのです。

この届出を行う際に注意すべきなのは、職種です。全部で11職種に分かれているのですが、現在の職種と的はずれのものを選択すると後日不支給や手間がかかるようになることがありますので、間違いないように選んであげてください。

職種の一覧:

  1. 管理的職業
  2. 専門的技術的職業
  3. 事務的職業
  4. 販売の職業
  5. サービスの職業
  6. 保安の職業
  7. 農林漁業の職業
  8. 生産工程の職業
  9. 輸送・機械運転の職業
  10. 建設・採掘の職業
  11. 運搬・清掃・包装等の職業

開業届とセットで出した方がよいもの5点の一覧と説明

こちらの5点の届出は、提出することでほぼ得をするものから、状況に合わせて得をする可能性があるものまで様々です。それぞれ期限があるものですから、状況に合わせてできるだけ早めに提出することをお勧めいたします。

  1. 所得税の青色申告承認申請書
  2. 青色事業専従者給与に関する届出書
  3. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
  4. 所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
  5. 消費税関連の3点セット
    1. 消費税 課税事業者選択 届出書
    2. 消費税 課税期間 特例選択・変更届出書
    3. 消費税 簡易課税制度 選択届出書

それでは順にみていきましょう

1.所得税の青色申告承認申請書

青色申告とは、しっかりと役所のルールに沿って決算書を作って報告する代わりに10~65万円の所得をなかったことにして、数万円の税金を減らしてもらえるという制度になります。複式簿記や財産、負債などの状況報告が必要になるため手間が大きく増えますが、ぜひとも活用してほしいものになります。

 ※日商簿記3級程度の簿記の知識が必要で、会計ソフトの購入が必要になったりしますので、弊社のような会社や税理士に依頼をして本業に集中する方が多いです。

主なルールは以下になります。

  1. 3月15日までに確定申告書を提出する
  2. 複式簿記に沿って損益計算書と貸借対照表などを作成する
  3. 10万円以上の物品を購入した場合、減価償却のルールにしたがって利益を計算する
  4. 請求書やレシートなど、必要な資料は保存をする
  5. 当たり前ですが、ウソを付かない

メリットとしては以下のようなものがあります。

  1. 青色申告特別控除
    (10万、50万または65万円の所得控除を利用できるため、節税につながる)
  2. 青色事業専従者給与
    (事業を手伝っている家族などに支払った給与を経費にできる)
  3. 純損失の繰り越し・繰り戻し
    (事業が赤字になった場合に3年間の繰り越しや1年分の繰戻し還付が得られる)
  4. 少額減価償却資産の特例
    (30万円未満の固定資産を一度に経費にできる)
  5. 貸倒引当金
    (売掛金や貸付金の一部を、貸倒れ損失の見込額として経費にできる)

税理士に依頼する費用以上のメリットが出ることが多いので、しっかりと提出してメリットを得ましょう。

2.青色事業専従者給与に関する届出書

こちらの届出を出すことで生計を一緒にしている配偶者や家族に給与を計上することができるようになります。

※「1所得税の青色申告承認申請書」を提出して青色申告の対象者になっていることが前提になるので、セットで出しましょう。

開業もしくは新たに青色専業専従者になった人ができた時から2ヶ月以内に提出します。※期限内に提出し忘れていた時は提出後から適用になります。

必要経費となる金額は、「妥当な金額」を上限とします。この妥当な金額というのは、届出書の「1青色事業専従者給与」の欄に記載された内容によって判断されるため、経験年数、仕事の内容、従事の程度、資格等をしっかりと記載してください。

※常識と離れた高額設定をすると否定されて費用計上がゼロ円になることもありますので、あくまで実態に即した金額、赤の他人に仕事をお願いした場合であってもおかしくない金額設定にしてください。

3.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

給与を支払う際に源泉徴収した所得税は、本来は給与を支払った月の翌月10日までに納付が必要です。毎月納めるのは手間なので、給与を支給する人数が9名以下の場合は半年分をまとめて年2回に納めれば大丈夫、という特例を認めてくれます。

この届出を出すことで、1-6月までに支給した給与に対する源泉所得税を7月10日まで、7-12月までに支給した給与に対する源泉所得税を1月20日までに納めればOKになります。

4.所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書

期末に商品在庫が残っている場合、その分を費用にすることはできません。通常は仕入れた際の金額をもとに計算する最終仕入原価法から複数ある在庫の評価方法から有利なものを選ぶことで利益を若干コントロール(適正表示)することができるようになります。その在庫の棚卸は何かと面倒なのですが、丁寧に選択するようにしましょう。詳細は在庫評価の部分でご説明いたします。

数年間使用するような高額の事業資産を費用化する仕組みである減価償却資産の償却方法については、この届出を出していなければ定額法といって毎月定額を計上する方法しか取れないのですが、定率法を選択することで早期の費用化をすることができるようになります。詳細は減価償却方法の部分でご説明いたします。

5消費税関連の3点セットについて

事業を開始した1年目と2年目については、通常は消費税を納める必要がありません。しかし、高額の機械や事務所などの事業資産を購入したり、当初赤字が想定されるなど、事業の状態によっては、敢えて消費税の課税事業者を選択することで得をすることがあります。

こちらの計算の方法は独特で難解、一度選択すると変更できない期間が数年ある等、制限も多いので、弊社のパートナー税理士や近所の税理士のような専門家に確認をされることをオススメいたします。

必要に応じて期限内に「消費税 課税事業者選択 届出書」「消費税 課税期間 特例選択・変更届出書」「消費税 簡易課税制度 選択届出書」を提出することになります。

詳細は消費税についての部分でご説明いたします。

まとめ

提出が義務のものと、任意だが出すと有利になる可能性があるものなど、様々な届出を一気にご説明したのでパニックになりそうかも知れません。

整理すると、以下の2点が、事業を開始した際に提出必須のものになります。

  1. 税務署向け:個人事業の開廃業届出書
  2. 都道府県税事務所向け:個人事業税の事業開始等申告書

これに加えて、従業員を雇った際に必要になるのがこの3点です。

  1. 税務署向け:給与支払事務所等の開設届出書
  2. 労働基準監督署向け:労働保険 保険関係成立届出
  3. 公共職業安定所(ハローワーク)向け:雇用保険 被保険者資格取得届

任意のものの中でも「青色申告の届出」はぜひとも提出されることをオススメ致します。

提出先や期日がバラバラですので、こういったものをうまく整理してワンストップ対応してもらえる専門家を活用することがおすすめです。費用以上にメリットを感じられます。